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異才ダニエル・シュミット監督の耽美的世界──その秘密の扉を開いた艶麗なる名編が完全修復され、甦る。

1942年、第二次世界大戦中のスイス、首都ベルン。パーティーで、ひとり遠くを見つめる外交官ジュリアン・ロシェルは、かつて狂おしいほどに愛したある女性を思い出す──スイスの至宝ダニエル・シュミット監督による日本初公開作で、その後の熱狂的なシュミット・ブームを生んだ記念碑的作品がHDリマスターで甦る。

戦間期にスイスに亡命し、シャネルの伝記を執筆した作家ポールモランの小説「ヘカテの犬たち」を下敷きに、異才ダニエル・シュミット監督がギリシャ神話の女神ヘカテの物語を翻案、極限のメロドラマを作りあげた。恋の果てにあるのは死だと言う、謎めいたアメリカ人妻クロチルド役には、2018年に史上最年長の73歳で米「ヴォーグ」誌の表紙を飾ったスーパー・モデルにして女優のローレン・ハットン。彼女の虜となり愛憎に溺れてゆく外交官役に、洗練されたエロスを漂わせるベルナール・ジロドー。ディオールがデザインしたスーツに身を包み、北アフリカの地で、魔窟の街をさまよい歩く。撮影はシュミット作品の多くを手掛け、ルイ・マル、ロメール、ゴダールやストローブ=ユイレ他多くのアート系作品に携わってきた名匠レナート・ベルタ。美術のラウール・ヒメネスがエキゾチックな空間を作りあげ、マルグリット・デュラスの作品で知られるカルロス・ダレッシオの音楽が見るものを夢のような酩酊へと誘う。