＜あらすじ＞
『書を捨てよ町へ出よう』
画面の中から主人公の''私''が東北弁で語りかける。自己紹介を兼ねた、映画を見る者を挑発的に行動に駆り立てるファーストシーン。続いて空にあこがれて失墜した少年の死亡記事。''私''の声が虚しく響き渡る。万引き常習犯の祖母、戦争犯罪人で負け犬のような父、ウサギにしか心を開かない人間嫌いの妹。行き場のない鬱屈した情熱を持て余し、''私''は奇妙な人々と出会い、幻想と回想の入り混じった街を放浪する。

『田園に死す』
三大霊山のひとつとして知られる青森県の恐山に近いとある村。少年時代の''私''は壊れた柱時計のある古い家屋で母と2人暮していた。父はすでに亡く、少年は母への屈折した思いを抱えながら過ごしていた。隣の家に嫁いできた美しい人妻や村にやって来たサーカスが少年を家出の誘惑へと駆り立てる。上京した''私''は中年に達し、今1本の映画を作っている。''私''は次第に捨ててきたはずの故郷への絶ちがたい絆を自覚する…。

『さらば箱舟』
百年村の地主、時任家の跡取り息子・大作は、少年の頃、本家の柱時計を除く村中の時計を盗み出して海岸に埋めた。以来、村の時間は時任家の本家が所有することになった。数年後、大作は成長し、時任家の当主となる。分家の米太郎の妹スエと、いとこの捨吉は互いに愛し合う仲だったが、近親婚が禁じられていたため、2人は結ばれずにいた。スエの父は娘に貞操帯をつけるが、スエはこれを取り外そうと懸命になる。一方、捨吉は人々に不能だと罵られ、懊悩を募らせる…。