＜あらすじ＞
2010年惜しくも他界した"クロード・シャブロルの、最後の劇場公開用映画。オリジナル脚本を執筆したのは、シャブロル自身および女性脚本家オディール・バルスキ。
ポール・ベラミー警視は愛妻フランソワーズと共に、彼女の故郷である南仏ニームでのんびりとヴァカンスを楽しんでいた。ある日のこと、見知らぬ一人の男がベラミーを訪ねてくる。男はフランソワーズに追い返されるが、奇妙な訪問者に関心を抱いたベラミーは、彼と会ってみることにする。ノエル・ジャンティと名乗るこの男は、ベラミーに向かって自分は人を殺したと告白する。一方、前科のあるベラミーの異父弟ジャックが兄を頼って夫妻の家を訪れる…。
実際に起こった保険金詐欺事件を下敷きにしながら、主人公ベラミーと彼の妻および弟、さらには一人の犯罪者との見えない絆を徐々に浮き彫りにしてゆく、娯楽スリラー映画の枠組みに留まらない深みと広がりを備えたユニークな物語が考案されている。また、「メグレ警部(警視)」シリーズで知られる作家のジョルジュ・シムノンと反体制的シンガー=ソングライターのジョルジュ・ブラッサンスの思い出に捧げられたこの作品には、彼らへのオマージュが随所にちりばめられている。
俳優ジェラール・ドパルデューの個性を最大限に活かして造形されたベラミー警視の人物像は、脆い繊細さを秘めた巨漢のドパルデューの人間味と相まってこのうえない魅力を放ちつつ観る者に迫ってくるだろう。詐欺師と浮浪者をそれぞれ見事に演じ分けるジャック・ガンブランのほか、脇の人物を演じる俳優たちの滋味あふれる佇まいも忘れがたい。