＜あらすじ＞
上流階級の青年カール・ヴィクトルは父からの教えを守り、低い階級の娘とは結婚しないことを約束する。30年後、裁判長となったカール・ヴィクトルは自分が裁くことになった若い女性が、実は自分の過去の行いによって出来た自分自身の娘であることを知る。裁判長の職務と自己の罪の意識の間で悩みながら、彼は死刑を宣告された娘を独房から逃がす。数年後、娘を結婚させた後、カール・ヴィクトルは自らの罪の責任を取って自殺する。
このフォン・ゼンドリンゲン家の一族の物語において、女性に対する過去の過ちが因縁として次の世代に続くというカール・エミール・フランツォスの小説を取り上げたドライヤーは、過去と現在を交差させるフラッシュバックの手法を用いて、時間と空間を操るという技をこの初めての監督作品で試みた。さらに、監督と脚本のみならず、舞台美術も自ら担当し、ホイッスラーやハマースホイのような画家の絵画のモチーフをこの映画の中で採用している。
現代においては非現実的とさえ見える物語、その故意に操作された過去と現在の時間、さらには演劇空間を絵画にしたような映像は、このドライヤーの「裁判長」に不思議な魅力を与えている。
「裁判長」はデンマークの映画アーカイヴにオリジナルの可燃性ネガが保存されており、長い間このネガから作られた白黒のポジ・プリントによってこの映画は知られていた。1999年にデンマークの映画史家マーグレーテ・エングベアの監修により、製作当時の資料に基づき復元された着色版プリントが完成された。本DVDは初公開当時の映像の色を再現するこの最新の復元プリントを素材として用いている。