＜あらすじ＞
クロード・シャブロルが監督とオリジナル脚本を手掛けた、1969年発表のスリラー映画。数少ない登場人物とシンプルなストーリー、切り詰められた台詞と控え目な俳優の演技。いつになくミニマルな姿勢に徹することで達成された高度なサスペンス描写と繊細極まる心理描写は、シャブロルの作品中屈指の精妙さを誇る。平穏なブルジョア一家の日常を冷ややかに見つめながら、その表面的幸福に潜む偽善と不信と暴力性がじわじわと明るみに出されてゆく展開は見事の一言。主人公による殺人から証拠隠滅までを描いた画面の連鎖を始め、緊密で抑制されたシャブロル演出が堪能できる傑作である。実際、『不貞の女』は数多くの批評家によってシャブロルの最高作の一本とみなされているだけでなく、シャブロル自身にとっても最大の自信作の一本だという。