＜あらすじ＞
皮肉と虚無感に満ちた視線で人間存在を鋭くえぐるフランス映画の"悪意の眼"クロード・シャブロルが、1970年にオリジナル脚本と監督を手掛けた秀作スリラー。片田舎の住人たちの日常生活を綴ったのどかで静謐な描写と、猟奇的な連続事件をめぐるサスペンス描写の交錯が醸す独特の緊迫感は、この時期既に中堅として活躍していたシャブロルの映画ならではの味わい。スリラー・ジャンルの体裁の裏側には、抑え切れない本能的衝動に苦しむ男と、男を愛そうとしながら感情に身を任せることのできない女が紡ぎ出す、シャブロル流「美女と野獣」の物語が垣間見れる。『肉屋』は、スリリングな犯罪劇であると同時に人間精神の闇を探究した鋭利な心理劇であり、悲痛で奇妙な愛の映画である。物語がクライマックスを迎えるとき、観る者は必ずや屈折した感動を覚えることだろう。